BLという夢と妄想の世界へようこそ~読んだ本の話(ネタバレあり)~

BLをこよなく愛する腐女おばさんのブログです。

不幸か不幸じゃないかなんて、他人が決めることじゃやない。自分で決めるんだよ…。

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『雪解けの恋』表紙より

『雪解けの恋』

itz/著、三交社/発行

☆☆☆読んでみました☆☆☆

itzさんの作品、初読みです。ところで、お名前、なんと読むのですか?

昭和の人間にはちょっと難しいのですが…。繊細な絵で、綺麗な表紙に惹かれて購入しました。教師と生徒の話は、BLでは、あるあるのお話です。

さて、どんな話でしょうか?読んでみました。

☆☆☆どんな話なのかしら?☆☆☆

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『雪解けの恋』より引用。

澄人は花見に公園に行ったのですが、季節遅れの雪が降ってきます。花見は無理だなと思いつつ記念に雪の中の桜の写真を撮っていると、公園のベンチに座っている男の人に気が付きます。

その男の人が涙を流していたのです。澄人は大人の男の涙にビックリして、その光景が目に焼き付いてしまったのですが、後日、その男性と再会します。澄人の通う学校の現国の教師の染谷だったのです。

雪の中の光景が忘れられない澄人は、染谷に懐くようになり、二人の他は誰もいない放課後の部室で染谷と一緒に過ごすようになります。

染谷と一緒に過ごすうちに、澄人はだんだんと染谷に惹かれていくようになります。

若さゆえ、後先も考えずに自分の気持ちをぶつけてくる澄人。それに比べて、男が男を好きになるということに辛い想いをしてきた染谷は、澄人のこれからの事を考えると素直に澄人の気持ちに応えることができません。

染谷も、いつの間にか澄人のことに惹かれていっていたのです。実は染谷は、高校の時に男の同級生と少し付きっていたことがあったのです。その時に皆に知られることが怖くて二人の仲はすぐに壊れてしまったのです。その時に染谷はとても辛い思いをしていて、だからこそ、澄人が不幸になる前に、自分のことを諦めさせようとするのです。

大雪の中、誰もいない学校で、雪に戯れる二人。染谷は、世の中に二人きりならいいな、とつぶやくのです。二人きりなら誰も不幸になりようがないからです。なんともネガティブな考えですが、男を好きになることに辛さしかなかった染谷だからこそ、そう考えてしまうのでしょう。

自分のことを拒否する染谷に、最後までぶつかっていく澄人。そんな澄人に最後に心を開く染谷なのですが、その時に澄人に言います。

自分が澄人を不幸にしてしまうことが怖い。普通の幸せに気が付いた時に自分から離れいってしまうことが辛い、と。

それに対して、自分が不幸なのは先生のいない世界だと澄人は言い切るのです。ああ、高校生なのに、なんて素晴らしいことを言うのでしょう。

そうですよね。自分自身が不幸か不幸じゃないかって、他人が決めることではないですよね。自分がそれで幸せなら、周りなんて気にしないで、幸せになってと、染谷の背中をそっと押したくなりました。

っていうか私が押さなくても、澄人に押されてしまった染谷でした。ネガティブ思考の染谷ですが、10も年下の生徒に教えてもらえて幸せになってほしいと切に願ってしまいました。

☆☆☆エロ度はどうなのかしら☆☆☆

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『雪解けの恋』より引用。

違う意味ですごい。最近の作品はエロありきの作品が多いのだが、『雪解けの恋』はなんとHシーンがない。それを匂わせるシーンはあるのだが、そのものズバリというシーンがない。内容だけで読ませる作品なのだろう。しっかりとした内容なので、確かにHシーンはなくてもいいかもしれない。Hシーンが好きな人にはもの足りないかもしれないかも。

☆☆☆読んでみた感想は☆☆☆

itzさんは初読みでしたが、実力のある作家さんですね。

綺麗で、繊細な線で丁寧に描いている画も好感が持てますし、ストーリーもとても考えられています。

先生と生徒というシチュエーションは、BL界の中では王道の話なので、本当に多い話ですよね。その誰もが描いているシチュエーションで描くというのは、難しと思います。どこかで読んだことがあるような、みたいになってしまうのですが、『雪解けの恋』は、よくある話になっていません。

心に染みてくる言葉も多く、短い話ですが、とても濃い内容で、読み応えのある作品でした。大人の方にぜひ読んで頂きたい作品です。